ひなた文庫

熊本 南阿蘇


   はじめに


 本が、人、自然、地域をつなげてゆく。そんな場所を夢みて、2015年の春に南阿蘇鉄道の無人駅でこの古本屋をはじめました。
 どこか新しい居場所を求めてふわふわと漂う種のように本へ込められた想いや考えがこの場所を訪れた人と共にあって、それが思い出になったり、やすらぎになったり、ときには何かのきっかけになればと思っています。










    日 々



 そっと目を閉じる
 小さな息吹が聴こえる

 深く息をする
 レールの先にある豊穣
 空には孤高の翼

 無数の世界の気配を感じる
 風がすべてを撫でてゆく


 朝からの雨雲が高原の向こうの山波に霧をかけた。少しずつ山を登ってゆく白い気流を駅のホームから眺めていると、しばらく風が吹いて雨が止んだ。雲の切れ間から射した陽光が本棚の背表紙を輝かせ、夕暮れの温かさが駅舎全体をやさしく包む。うとうとしながら本を読んでいると、列車が着いた音でハッとする。待ち長かった時間は思い返すとあっという間だった。



      



      




 自然の移ろいや地域の変化を感じながら駅で過ごしていると、この場所で「私」は人を迎えているのではなく、旅をしているんだと錯覚することがある。目の前にいる旅人の経験ゆえの自信を纏った語りが聴き手の想像を掻き立てる。そんなとき私は「人」に対して「本」の本質を感じる。旅人の語りが私に旅をさせるように、「言葉」の連なりが「現在」の「私」をある「場所」や「気分」に導く。「本」は誰かの「過去」の「言葉」の集合体で、読む者を特定の「状態」に誘うのなら、「人」は絶えず変化し続ける現在進行形の「本」だと思えてくる。

 今日もまた「自分」という本を編む、いつか手にしてくれる誰かに想いを馳せて。







    日 時

金曜日 土曜日
午前十一時から午後三時半まで









    場 所

南阿蘇鉄道 南阿蘇水の生まれる里白水高原駅
 熊本県 南阿蘇村 中松1220の1












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